2010年代前半、厚生労働省では、「女性活躍推進」を目的としてメンター制度を推進していました。模範となる女性社員をロールモデル(お手本とする社員)としてのメンターとし、育成しようとする女性社員をメンティーとして、その活躍を支援・推進する試みでした。
その目的には大きく2つあり、結婚・出産・育児などを理由に、退職する女性社員を少なくし、勤務を継続する目的と、女性管理職を育成し登用する目的の2つでした。
しかし、現在では、女性社員を支援するというよりは、性別に限らず、人種、宗教、年齢、学歴などによる差別をなくし、ダイバーシティ=「多様性」を受け容れ合うことの大切さを学ぶ目的に広がってきています
<女性活躍推進を目的としたメンター制度のポイント>
① 女性社員の活躍できる仕組み・制度の整備
② 女性メンティーのキャリアに対する教育
③ 組織・職場におけるリーダー・マネージャー像の見直し
④ 女性メンターだけに固執する必要はない
⑤ メンターはロールモデルというよりは、参考とする存在
⑥ 男性メンターが女性メンティーから学ぶ態度が必要
⑦ ダイバーシティを推進する意識が大切
女性社員を働きにくくする要因として、「仕組み・制度」と「社員の意識・組織の雰囲気」があります。まずは、女性社員の活躍を推進するには、メンタリングを行う前に、女性が職場において、結婚・出産・育児などで、勤務しにくい状況を改善する仕組みや制度を整備する必要があります。
メンタリングは、2つ目の要因である「社員の意識改革、組織風土の改善」のために行うものです。それには、周囲の意識改革も必要ですが、同時に、女性メンティーの意識改革も必要です。女性メンティーに対しては、キャリアに対する考え方を伝えたり、自分の将来を考える場をつくったりすることを勧めています。メンティー自体に、キャリア志向があれば問題ないのですが、キャリアに対する意識が少ない場合は、キャリアに対する教育をしてから、メンタリングに臨む方がスムーズに進みます。
もし、メンターにキャリアに対する見識があれば、メンタリングから始めて、じっくりとキャリアについて語り合うこともできるでしょう。そうでない場合は、メンターに対して、キャリアに対する見識を高める教育が必要です。また、メンターだけではなく、部下を育成する管理職にも、キャリアの理解にたいする必要性は高まっています。
女性社員を管理職候補者として、メンター制度で見出したい際に、まずは、アンケート、ヒアリングや勉強会などを通して、広くメンティーの対象者から、意見をよく聴いてみてください。メンティー候補者から、「管理職にはなりたくない!」と言う者が多いと嘆く担当者の話をよく聴きます。
これまでの経験からすると、マネジメントに対する興味や関心のあるなしの前に、職場にいる身近な管理職像(男女関係なく)を、メンティー候補が受け容れられないケースが意外に多いと感じます。このことは、何も女性社員に限らず、多くの社員が感じているかも知れません。
このような事態には、職場において、「どのようなリーダー像や管理職像が望まれているのか?」または、「やってみたい管理職像はどのようなものなのか?」を話し合い、リーダー、管理職のあり方、考え方を見直すことが先になります。
「女性社員のなかで、ロールモデルになるようなメンターがいない!」という相談をよく受けます。まず、ここで、確認しておきたいことは、日本メンター協会の捉えているメンターは、「模範的な目指すべきモデルではない!」ということです。いい意味でも、そうでない意味でも、“参考”にすることはあっても、目指す対象ではないということです。
もちろん、メンタリングを進めていく中途で、メンティーが目指したいという気持ちは否定するものではありません。ですから、女性活躍推進におけるメンター制度のメンターは、女性であるべきと決めつける必要はありません。もちろん、女性メンターから、同性ならではの意見も出てくるでしょう。「同性ならではの質問や意見を聞きたい」という要望には、男性メンターから、参考になる女性を紹介してもらえればいいのです。その者から、参考意見を女性メンターに話してもらっても、一向に構わないのです。むしろ、お互いに知人を紹介し合える関係を、メンタリングでつくることの方が大切なのです。
日本メンター協会では、女性社員の活躍を推進するメンター制度といえども、多様性を認め合うという考えを最優先とし、メンターやメンティーにも、女性社員だけでなく、男性社員と共に、メンタリングを推進していくことの方が、逆に、女性社員の活躍推進につながると考えています。
例えば、女性同士のペア、男女のペア、男性同士のペアなど数組のペアを混在させ、チームとして、メンタリングを進めていく施策を行っています。2~3回程度、メンタリングした後に、パートナーを代えてメンタリングをしたり、数組のペアで話し合うワークセッションを活用したりしています。そうすることで、性差の問題はもちろん、個々の考え方の違いを認め合う考え方、「ダイバーシティ=多様性」を理解するようにします。メンターメンティーに関係なく、お互いの意見を受け容れ合うことで、多様な見方が学べます。その意味では、男性メンターのほうが女性メンティーの考え方から学べることが多くあるかも知れません。
また、メンターが、メンティーの意見を前向きに学ぶ姿が、メンティーに対しいい影響を与えます。女性が活躍できる職場をつくるためには、ダイバーシティ的な考え方への意識転換が求められます。また、職場風土も、これまでの常識に捕らわれない意識に変えていく必要があります。
※人材開発情報誌「企業と人材」2019年11月号に掲載されました。