第7回「メンター制度① 新入社員の定着促進」

現在、メンター制度の導入の目的として圧倒的に多いのは、「新卒新入社員の定着」の促進です。厚生労働省の統計では、大卒の新入社員が3年以内に退職する割合が『3割』とあります。苦労して採用・教育した新人の退職理由の多くが、「相談できる人がいなかった!」は、不幸なことです。このことが、メンター制度の導入につながっています。しかし、「相談できる人=メンター」を任命しても、定着を促進するような対話がなされていなければ、効果は限定的になってしまいます。


【新人の定着促進につながるもの】

 

新入社員が組織に定着する動機は、「働きやすさ」「仕事のやりがい」でしょう。「働きやすさ」につながるものは、「マネジメント」「人間関係」「組織の風土」3つです。

 

「上司の指示があいまい」、「先輩と気軽に相談ができない」、「意味不明なルールがある」などが、働きにくい原因としてよく上がっています。「コミュニケーションの問題」や、「職場環境になれていない」ことが原因であることが多いと思われます。このようなケースこそ、メンタリングの場で、「不安や悩みを共感してあげる。」ことや、「自分の新人時代の体験を話してあげる。」ことです。メンターとしてのコミュニケーションの教育を受けていれば、対応できることが多いと思います。

【「働きがい」について】

 

「働きがい」については、“仕事のミスマッチ” とも表現され、具体的には、「イメージと違った!」「学校で学んだことが活かされない!」などの声がよく上がります。

 

まず考えられるのは、採用の問題でしょう。また、上司のマネジメントが上手にできていれば、モチベーションを感じて仕事に取り組めるかもしれません。そうなると、メンタリングでカバーできる範囲は限定的になるとも考えられます。しかし、メンタリングでも対応できることは、かなりあります。メンター研修では、仕事のやりがいを感じるために必要なこととして、以下の3点を伝えています。

 
   

     ①  興味~仕事そのものに面白さや興味を感じること。

 ②  評価~仕事した結果に対し評価すること。

   成長~成長を実感してもらうこと。 

 

仕事に対する「興味」を新人に直接感じてもらうことが難しいにしても、「メンター自身の感じた仕事の素晴らしさ」を披露することはできます。「評価」には、仕事に対する報酬や顧客からの反応も大きいものですが、メンタリングの場でも、新人から仕事の話を聴いて、それを「ほめる」ことはできます。それにより、本人が自覚できない「成長の現実を伝える」ことができます。

 

そもそも「仕事のやりがい」は、すぐに生まれるものではなく、様々な経験から培われていくものです。新入社員の失敗談・成功談、悩み・不安などの体験を通して、『共に感じ、共に考えていくメンタリング』により、『やりがい』は生まれてきます。

【メンターの選定】

「働きやすさ」「仕事のやりがい」にまつわる不安や悩みを話し合う場をつくり、自分の経験を誠実に伝えてくれるメンターを選定するには、どのような社員がいいのでしょう。当協会では、3つの基準を案内しています。

 

1・コミュニケーション

 同世代だと話しやすいし、共感しやすいと考えられる。しかし、世代の問題よりは、むしろ、

 対話のスキルの影響が大きい。

 

2・キャリア

様々なキャリアを持っている社員の方が望ましいが、『自慢や説教』になっては、むしろ逆効果。

『実体験を誠実に伝える』ことが必要です。

 

3・職種

同じ仕事をしている方が、具体的なアドバイスは可能。しかし、違う仕事からの観点も大いに参考になる。

 

上記の基準から、メンティーの個性や組織の環境に対応して、メンターを選ぶことになりますが、全てを兼ね

備えたメンターを選定するのは困難といえるでしょう。多くの場合は教育でカバーすることになります

 

 

 

【キャリア開発について】

終身雇用を持続することが難しい環境下では、若手社員も企業に対して、「最後まで面倒を見てもらう」ことは期待していないでしょう。とすれば、新入社員も、職業人としての価値を上げてくれる組織に魅力を感じます。

 

しかし、若い社員にとっては、職業人としての価値は、仕事の知識や技術、資格などを主に考えているかも知れません。ある程度キャリアを積んでいる職業人からすれば、それだけでは、とても仕事にならないことは分かり切っています。仕事では、組織のルールや周囲との付き合い方を上手にすることが求められますし、組織や職種によっては、そちらの方こそ価値があるかも知れません。

 

 

そのことを、メンタリングの場で、新入社員に伝えることは大変重要です。これこそが、大切なキャリア開発の一つといえます。

【中途社員について】

メンター制度における社員定着促進の対象は、新卒新入社員が多いですが、新入社員の多くが、中途採用という企業も多いと思います。

中途社員は、「できて当たり前」とされ、組織にマッチするには大変苦労が多いことでしょう。

 

その意味では、中途社員に対するメンター制度こそ、必要性が高いともいえます。中途採用は、同時期入社は少なく、世代もまちまちだったりして、メンター制度の導入はしにくいと感じるでしょう。

 

そこで、当協会では、『同時期入社の社員を集め、メンター制度を実施する』よう指導しています。採用が厳しい環境下では、中途社員の定着促進も検討に値するテーマだと思います。

 

 

※人材開発情報紙「企業と人材」2019年10月号に掲載されました。