メンター制度において、当該者に対する教育研修は大きな柱です。
その中でもメンター教育の質問が一番多いです。どのような制度の目的であっても、メンティーが本音で話せるメンターが望まれます。メンターの選定での解決が手っ取り早いと思われますが、そのような社員をそろえることは、どの組織でも簡単なことではありません。
向いていないと思われる社員も含め、メンター教育を施すことが現実的です。
メンターに対して教育するべき項目は、以下の2点がベースとなります。
① メンターおよびメンタリングに対する考え方
② メンタリングにおけるコミュニケーションの取り方
メンターに向いていると思われる社員でも、メンタリングを「職務知識などを教えること」「メンティーの相談に乗ること」と考えている人が多いようです。2つともメンタリングの範疇に入りますが、その前提として、メンティーが本音で話すことがベースとなります。となると、メンターおよびメンタリングの考え方では、「メンティーとの信頼関係が大切」であることをシッカリと理解してもらいます。
加えて、メンターは、「教えるというよりは聴く人」であり、「参考として自分の経験を話す人」であることを伝えます。
メンタリングにおいて、信頼関係をつくるためのコミュニケーションの取り方を身に付ける必要があります。そのポイントは以下の2点です。
① 相手の気持ちを理解するような聴き方
② 異なる意見でも受け入れる態度
ビジネスでは、コミュニケーションを「情報を正確に伝え、正確に受ける」ということに、重きが置かれるように思います。それも大切ですが、メンタリングでは、信頼関係を深めるためにも、メンティーの気持ちを理解することのほうがより大切です。
メンティーの話すことが、メンターにとって、非常識とか思慮が浅いように思われることもあるでしょう。それをたしなめるよりは、その意見を受け容れる態度が大切です。そのように対応しないと、メンティーは次から本当の気持ちは話さないようになり、メンタリングは成立しません。上記2点を身に付けることが基本になります。
信頼関係が育まれるような研修プログラムを実施することが、メンター制度の成功のポイントです。
その意味では、メンター研修よりもメンティーと共に受講するメンタリング・スタート研修を実施することの方がより効果的です。当研修での学習項目は以下の3点になります。
① お互いに知り合い、理解し合う
② メンタリングを体験する
③ 他ペアのメンタリングを参考にし、その理解を深める
まずは、お互いに知り合うことです。相手の考え方や性格、これまでの経歴などを共有することです。どこまで開示できるかは人それぞれでしょうが、少しでも相互理解が進むことはその後のメンタリングを円滑にします。
メンタリングの体験は必須です。できれば、実際のメンタリングと同じような形式での実施が実践的であり効果的です。そのためには、メンタリングノートを用意し、研修でもそれに沿って体験するとよいでしょう。また、メンタリングは、人によってその内容や感じ方が様々です。メンタリング体験の感想を共有することはその理解を深め、メンタリングの幅が広がり、より自由な話し合いができるようになります。上記に加え、各人のコミュニケーション・スキルの向上ために、グループワーク等を織り交ぜると、さらによい研修になります。
フォロー研修もエンディング研修もペアで受講します。
フォロー研修の実施時期は、メンタリング・スタート研修の実施後、2~3回ほどメンタリングを行った後くらいが適切です。スタート研修では、講師の手引きもあり、上手くできたメンタリングも、実際に行ってみると、OJT的になったり、メンターの説教中心になったりします。場合によっては、真面目に実施しないペアも出てくるかもしれません。そのようなメンタリングに対し軌道修正が必要です。ペアのコミュニケーション・ワークを中心に、メンタリングをチェックできるものを行います。また、制度担当者にとっては、ペアの状況を知るよい機会にもなります。
エンディング研修では、メンター制度の成果確認も大切ですが、より重要なことは、制度が終了した後でも、よいメンタリングが継続きる関係につなげることです。
日本メンター協会では、エンディング研修を「新たな2人の出発」としています。制度担当者にとっては、次期メンター制度をよりよいものにするためのヒントが得られるでしょう。
制度の目的により、メンター制度を充実させる教育研修は様々あります。新人定着の場合は、新人やメンターの所属する部署の上司や管理職などに対する教育です。メンター制度やメンタリングの意義を理解するために、メンター研修と同様な研修を実施します。メンター研修は、マネジメントにとって必須なスキルや考え方が習得できるので実施する価値は、十分にあります。
メンターをフォローする役割として、メンターズメンターというものがあります。相応のコミュニケーション能力とキャリアについての深い理解が必要になります。そのような立場の社員に対し、キャリアやカウンセリングの研修は効果的です。制度の目的が、女性活躍推進やコミュニケーション活性化が目的の場合、メンターやメンターズメンターに対して、ダイバーシティやファシリテーターの考え方などの研修も必要になってきます。
数組のペアで悩みや課題を話し合うグループ・メンタリングの機会を設けることも効果的です。それが発端になり、制度とは一線を画したメンタリング・ペアが生まれることもあり、メンタリング文化が根付くきっかけにもなります。
当該者の教育をせずにメンター制度を導入しても、上手くメンタリングできないペアは出てくるでしょう。効果のあるメンター制度を実施するには、当該者の教育は外せないものです。組織によっては、金銭的、時間的コストのかかる研修実施の理解は難しいかもしれません。制度導入の目的に対応した研修を複数実施することが望ましいのですが、せめて、メンタリング・スタート研修だけでも実施することをお勧めしています。
※人材開発情報誌「企業と人材」2019年7月号に掲載されました。