第2回「メンタリングの本質を考える」


【メンタリングのテーマ】

企業におけるメンター制度で実施されるメンタリングは、「メンターとメンティーの対話」と考えて差し支えないと思います。米国で生まれたメンタリングは、仕事におけるキャリア形成が主な目的ですが、日本国内企業におけるメンタリングは、仕事だけではなく、職場生活やプライベートまでと幅広いテーマが求められています。というのも、国内の企業では、社会人や組織人としては未成熟な新卒新入社員がメンティーになることが多く、その社員の定着が目的であるという背景があります。

メンティーの公私にわたる悩みを解決・軽減するための相談、いわば、日本的なメンタリングが求められているのです。

 

そのようなメンタリングにあって、何のテーマを取り上げたらよいのでしょうか。

 

大きくは以下の3つに分けて考えると良いでしょう。

 

① 「今、悩んでいること」~現在

職場や家庭問わずに、「仕事が覚えられない。」「コミュニケーションが取りにくい人がいる。」「家庭内のトラブル」など、真剣に悩んでいることが、第一に挙げられます。

 

職場では、プライベートのことは話しにくいテーマだと思いますが、特に、未成熟なメンティーに対しては、生活全般の助言は必要です。これは、国内企業のメンタリングの特徴的なテーマでもあります。

②「将来について」~未来

 

キャリア形成と置き換えてもいいと思います。

職場の仕事のレベルアップにと留まらず、どのような仕事をしたいのか、どのような人間になりたいのかなど、一企業の枠を越えることまで及びます。

 

人事担当者にとっては、将来について考えることは、離職につながりかねないと心配される向きもあると思いますが、メタリングにとっては、避けることのできないテーマです。むしろ、避けることは、若年社員の支持を失い、結果的に組織を離れることになりかねません。

 

③ 「経験したこと」~過去

メンティーにとってメンターの体験談は、公私を問わず、大変参考になります。一方、メンターにとっても、メンティーの体験談は、新たな考えを知る良い機会となります。

 

 

また、体験したことを共有することは、パートナーに対して関心が高まり、信頼関係が築かれていきます。加えて、自分自身にとっても、自分がどのような人間かを再認識できるという意味でも大変意義のあることです。

 


メンタリングに必要なスキル

上記の「現在・未来・過去」の3点を正直に話すことは、余程、自己開示力のある人間でないと、なかなか難しいことです。

そこで、有意義なメンタリングには、メンターとメンティーの「何でも話せる関係」=「信頼関係」が必要不可欠なのです。さらに、その話を導くための「信頼関係をつくるコミュニケーション・スキル」=「メンタリング・スキル」が必要になってきます。

それを3つに要約すると下図のようになります。

 

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メンタリングに必要なスキル・スタンス

 

        ①   相手の話しやすい雰囲気をつくること

        ②   自分のこと(経験、考え、思い、気持ちなど)素直に伝えること

 

        ③   相手のこと(経験、考え、思い、気持ちなど)前向きに受け容れること

 

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以上のスキル(技能)やスタンス(態度・姿勢・心構え)を、メンターに必要なスキル・スタンスと言い換えてもいいでしょう。すべては、コミュニケーションの基本ともいえるものですが、実践することは意外に難しいことかもしれません。

 

メンター制度を導入する多くの組織においては、以上のスキルをメンターやメンティーが習得し、そのスタンスを理解するための研修を実施しています。さらに、そのようなスキル・スタンスを発揮することを効果的にリードする教材を活用しメンタリングを行っています。(メンタリングのための研修については、後の回に詳しく解説します。)

 

 

このスキル・スタンスの一番のポイントは、メンター自身の体験や気持ちを、できるだけありのままに、率直に、素直に話すことです。それも、仕事や職場のことなどのテーマよりは、プライベートのことから話すと自然な会話につながり、テーマの幅も広がります。

また、そのことで、メンティーはメンターに対し、親近感が湧き、自分のことも素直に話すことができるようになります。しかし、メンターによっては、それが自慢話になったり、説教になったりしてしまうことがあります。それではメンティーの口を閉ざしてしまうので、注意が必要です。

仕事の話をするのであれば、成功談よりは、失敗談の方を優先すると良いでしょう。

 


【メンタリングと他のコミュニケーション・スキルとの違い】

メンタリングとコーチング、カウンセリングやOJTOn the Job Training)との違いを、よく質問されます。違いを端的に言うと、下図の3つになります。他のスキルでは、多くは、下位者の成長が目的ですが、メンタリングは、メンティーとメンターの成長のために行うものです。2000年代半ばでは、メンターの成長に力点を置いて制度を導入する企業も多かったです。

 

また、メンタリングは、自由な対話です。逆にテーマや目標を決めてから始めることはメンタリングの良さを減らすことになりかねません。できれば、対話の中から、自分なりの目標や課題を創ることが理想です。

 

メンタリングでは、素直で率直なコミュニケーションが必要です。コーチングやOJT指導の基礎として、メンタリングを学ばせている組織もあります。

メンタリングのスキルやスタンスは、マネジメントや商談、ミーティングなど、どのような場面でも活用できますし、それらを効果的に進めるためにも、必要不可欠なことともいえるのではないでしょうか。

 

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メンタリングの特徴(他のスキルとの違い)

 

  ①   下位者(メンティー・部下など)のためだけにあるのではない。メンターの成長も大きい.

  ②   目標や課題を決めたり、成果を求めたりするものではない。

 

  ③    特別な専門技術の習得が必要なわけではない。

 

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                               ※人材開発情報誌「企業と人材」2019年5月号に掲載されました。