「メンター」や「メンタリング」という言葉は、普通に使われるようになってきました。しかし、その意味するところは広く、掴みづらい言葉と思います。また、一般的に言われている意味合いと、組織の人事担当者の意味するところも、微妙に違うと思います。
一般的には、「支援者、助言者」と訳されることが多いです。「未熟な若者を支援・助言する経験豊かな人」を意味します。しかし、今では、組織において、社員定着促進や女性社員活躍推進などの目的で、役割として任じられる社員の呼称として用いられる方が、一般的になってきました。
また、支援を受ける立場の人をメンティー(プロテジェ)と呼んでいます 。
ここでは、3つの類型としてのメンターを解説します。
組織の内外を問わず、仕事やプライベートなど様々なことで、支援を受けたり、助けてもらったりしている先輩を「メンター」と呼ぶのが一般的な使われ方でしょう。そのイメージは、以下のことがあげられます。
■組織内外問わない、性別や立場も関係ない
■特定の分野というよりは、人生全般で助けられている
■比較的、年齢の離れた先輩のイメージがある
■メンターとメンティーの間には、強い信頼関係がある
よく「どうしたらメンターになれますか?」「メンターに必要なスキルはどのようなものですか?」と問われますが、一般的に言われているメンターは、資格とか、スキルとかは、あまり馴染まないかも知れません。というのも、「あの人は、私のメンターだ!」と思われている人が、その人のメンターなのです。ですから、同じ人でも、他の人からは必ずしもそう思われていないかもしれません。
一般的なメンターを整理すると以下のことになります。
■支援を受けている人が、その人をメンターと思っている
■メンター側の人間は、特にメンターと自認していない
■メンターにとって、特別に支援・助力している意識はない
社員定着促進、女性社員活躍推進、リーダー・マネージャー育成など、組織の目的において、特定の社員をメンターとして任じます。同時に、メンティーも選出します。組織としては、それを仕組化し、メンター制度として、定期的に支援活動を行わせるよう、サポートします。特に、人事を担当としている方にとっては、メンターと言えば、制度上のメンターを思い浮かべることでしょう。
この場合のメンターは、制度の目的に沿ったメンターを選出することになりますが、多くは、メンターとしての教育をする場合が多いです。その際の教育は、傾聴スキルやコーチングスキルなどのコミュニケーション研修、キャリアの考え方などがあげられます。組織の目的によっては、OJT指導員も兼ねる場合などティーチング・スキルなども教育しています。
※メンター制度上のメンターは別ページで詳しく説明しています→
キャリアコンサルタントや産業カウンセラー、コーチのように、メンターを職業として活動しているコンサルタントもいます。公的な資格はありませんので、この場合は、専門団体などで教育を受けたり、カウンセラーやコーチなどの経験を活かしたりして、プロとして、法人や個人と契約して活動しています。契約の目的は様々ありますが、メンティーの人間的成長支援、キャリア支援、職務能力向上支援をサポートしている場合が多いようです。また、IT企業や介護団体など、特定の業界を専門領域として活動しているメンターもいます。
また、厚生労働省のメンター制度のための助成金の要件の1つとして、プロフェッショナルなメンターの活用をあげています。
メンターの語源は、トロイア戦争後のオデュッセウス(Odysseus)王の流浪の旅を描いたホメロス(Homer)の長編叙事詩『オデッセイア(The Odyssey)』の登場人物「メントル(Mentor)」と言われています。メントルは王の親友で息子テレマコス(Telemakhos)の良き指導者、良き理解者、良き支援者として描かれています。
このメントルの存在が、偉大な教育者としてメンターのイメージをされている方も多いと思います。しかし、日本国内におけるメンターは、組織の制度上で任命されたメンターのように、特別視された教育者、支援者ではなく、一般社員が任ずる場合が多いようです。
メンタリングの元々の意味は、「メンターがメンティーにする支援全般」を指す言葉でした。日本メンター協会でも、10年前位までは、「職業人としてのキャリア支援」と「社会人としての成長支援」と2つに分けメンタリングを説明していました。
まずは、元の意味である「支援全般」についてのメンタリングを解説します。
❶ 職業人としてのキャリア支援
主に職場における、教育訓練、職務機会サポートなどのキャリア開発支援です。職務機会のサポートは、メンティーの上司への推薦や働きかけを意味するもので、メンタリング発祥の地である米国のビジネス社会においてあり得ることなのでしょうが、日本の企業内では馴染まないと考えられます。
メンタリングが日本国内において、盛んに採用された2000年前半では、OJTとほぼ同様の活動としてメンタリングを定義づけているケースが多かったです。
❷ 社会人としての成長支援
職場を超え、社会人としての人間的成長をサポートするものです。仕事だけではなく、人生や生活全般の相談を受けたり、人や書籍、会合などを紹介したりすることです。「悩みを聴いてあげる」などの心理面のサポートも、こちらの支援に入ります。
現在では、多くが、こちらに近い意味合いでメンタリングを捉えられています。
組織におけるメンター制度においては、「メンターとメンティーの対話」をメンタリングとしている例が多いです。今では、一般的にも、メンタリングを「対話」として捉えている方が多くなってきました。メンタリングは、形態的には、面談やコーチング、1on1(ワンオンワン)などと同じように「1対1で話し合う」ことです。ですから、これらと「メンタリングはどう違うのか?」と疑問に思っている方が多いのです。
明確にそれらと違うこととしては、メンタリングの目的は、メンティーの支援だけではなく、「メンターの成長」も含まれるということです。2人の成長のために行うことが、メンタリングの大きな特徴であり目的と言えます。
メンタリングについて、「コーチングやカウンセリング、OJTとの違いは何ですか?」とよく問われます。そのやり方・スキルの違いといっても、それぞれ様々な考え方ややり方があると思いますので、具体的に比較することは難しいと思います。
メンタリングの特徴的なところを以下にまとめておきましたので、参考にしてください。
■特に決まったやり方・スキルが特定されているわけではない
■メンティーだけではなく、メンターの成長も目的である
■テーマは決まっているのではなく、対話より生まれてくるものである
メンター制度は、「メンタリングを効果的に行うための仕組み」です。制度上のメンターとメンティーは、当初は、信頼関係のないところから始まることを理解する必要があります。メンタリングは、メンターとメンティーが、気兼ねなく自由に話し合えることが必要です。そうでないと、メンティーは、疑問や不安に思っていることは話さないでしょうし、メンターにしても、自分の思ったことを素直に話せないのでは意味がありません。メンター制度導入のポイントは、メンター・メンティーの選定と教育です。
■ メンター制度の目的を定める
メンター制度を導入する際に、まずは、その目的を整理することが必要です。「社員定着支援」「女性社員活躍支援」「リーダー・マネージャーの育成」「コミュニケーションの活性化」「メンタルヘルス対策」「組織の理念・スキル・技術の伝承」などが、主な目的です。多くの組織は、複数の目的を兼ねることが多いですが、できれば、その目的を1つ、ないしは、2つまでに絞った方が、導入しやすいです。
■ メンター・メンティーの選定
上記にあるように、まずは、目的を定めます。その目的の対象となるメンティーを決めます。例えば、"新入社員の定着促進"であれば、メンティーは新入社員となるわけです。そして、次に、その目的にかなうメンターを選定することになります。同じ部署がいいのか?違う部署がいいのか?また、年齢差は?などを様々な条件を勘案して決めます。しかし、多くの組織では、適合する社員を選定することが難しいのが多いのが実情です。その場合は、教育研修で補うことが一般的です。
決め方は、上司からの推薦、本人からの立候補が主なものです。任命・推薦・立候補など、複数を使い分けている組織も多いようです。
■ メンタリングの期間・回数
具体的には、「メンタリングを1年間、月1回実施する」といった具合に設定しています。一般的には、メンティーが若ければ若いほど、期間・回数とも多くなる傾向があります。
他には、メンターを何名かをプールしておいて、メンティーが希望するメンターを紹介するといったものもあります。
メンター制度の特徴は、他のメンターとメンティーの関係と違い、「メンターとメンティーに信頼関係があまりない」という状況で始まることが多いことが特徴であり、強く注意をする必要があります。一般的なメンターとメンティーの関係は、深い信頼関係の上で成り立っているものです。プロフェッショナルなメンターは、そのスキルの高さが担保されており、クライアント側の要望や目的に沿って進んでいくものです。
しかし、組織のメンター制度の2人には、信頼関係やスキルがあるわけではありません。この信頼関係が少ないなかで、メンタリングを行わせても、効果的なメンタリングになりません。上辺だけでの雑談や一方的な職務指導で終えてしまいます。そのことが目的であればよいのですが、「2人の人間的成長」というメンタリングの普遍的な目的においては、「?」が付かざるを得ないでしょう。メンター制度においては、2人の信頼関係をいかにつくっていくかが生命線となります。
「信頼関係」は、一朝一夕には作れません。時間がかかるペアもいます。信頼関係をつくるには、スタートが大切です。メンターとメンティーが、知り合う時間を設けます。例えば、お互いの半生を紹介するワークを取り入れたり、楽しめるワークを3ペアほどで行うのもいいでしょう。また、メンタリングのやり方を2人で学ばせることも効果的です。日本メンター協会では、ペアで参加する公開講座を開催しています。また、各組織に講師を派遣してのスタート研修を実施しています。
【日本メンター協会】
Tel :03-6264-1191
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